ギリシャの歌手事情を調べてみた その1

先日のチャイコフスキーコンクール 声楽部門の男声で1位を獲得し、
最近活躍し始めた若手有望株としても、大変素晴らしい歌手を輩出しているギリシャ。
こうなったらギリシャの歌劇場で活躍している主にギリシャ人のレベルがどんなものか興味が出てきたので少し調べてみることにしました。

 

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MARIA MITSOPOULOU  ソプラノ
シューマン 5 GEDICHTE LIEDER

日本人にも多く聴かれるタイプの澄んだリリックソプラノ
こうう声は個人的には結構好きなのですが、やや上半身だけで歌っている感じで
開いた響きにはなっていません。魔笛のアリアでもやはり同じような感じです。

 

 

 

モーツァルト 魔笛 Ach, Ich fuhl’s

高音をフォルテで出す時は比較的開放されているのですが、
ピアノで出す時は響きが細く硬くなってしまう傾向があります。
一番最後はそれなりに上手くいっていますが、全体的に声で鳴らし過ぎなので、
もっと喉は解放しても、響きは細く通さなければこの歌を歌うレガートにはなりません。
声質がパミーナにぴったりなので本当に惜しい。

 

 

 

 

Chrissa Maliamani  ソプラノ
バーンスタイン キャンディード Glitter and be Gay

やっぱりギリシャ人の声はわかりません。
響きはそこまで高さがないのですが、決して喉声ではなく、
ミュージカルにしては発音が奥過ぎるのですが、声が詰まっている訳でもなく、
歌っている口のフォームは自然です。
もしやこれは英語によるところが大きいのでは?と思い他の曲を聴いてみると・・・

 

 

 

Jシュトラウス こうもり Spiel ich die Unschuld

ドイツ語にしてはやや発音が奥過ぎる気もしますが、
やはり英語を歌っている時より高い響きです。
発声ではなく原語の問題が声に与える影響の大きさがこれだけ聴いてもよく分かると思います。
それにしても、この人普通に良い歌手ですね。
アデーレにしては真面目な声で終始歌っていますが、もっとオケが雰囲気をしっかり作ってくれればかなり良い演奏になりそうです。

 

 

 

 


 

 

 

 

Panajotis Iconomou  バス
ヴェルディ シモン・ボッカネグラ アリアと二重唱
バリトン Sergio Bologna

名前はパナヨティス・イコノモウと読むようです。
1971年ミュンヘン生まれのギリシャ系ドイツ人とのこと。
てか、待て待て、そこらのイタリア人バスよりよっぽどヴェルディを歌うに相応しい声をしているではないか!
やっぱりギリシャ人の血は特別な化学反応を起こすのでしょうか?
どう聴いてもドイツ人のバスの声ではありません。
セルジョ ボローニャも大変素晴らしい歌手で過去に私も記事を書きましたが、
2人で歌っているとIconomouの声とBolognaの声が完全に混ざります。
これは響きの質が同じだから起こることで、例えソプラノとメゾの重唱でも、
メゾの歌手の方が上手いと、逆転現象が起こって、ソプラノ歌手の方が響きが暗く音程も低く、
メゾの歌手の方が響きが明るく遠くまで飛ぶという現象が起こり、結果同じ音を歌うと完全なユニゾンになりません。
こんなバスを聴いたら、ギリシャ系ドイツ人のヘルデンテノール出てこないかな~。なんて思ってしまうのは私だけでしょうか?

 

 

 

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大劇場には出ない素晴らしい高音を持ったヴェルディバリトンSergio Bologna

 

 

 

 

Dimitris Tiliakos  バリトン
ヴェルディ 椿姫 Di Provenza il mar, il suol

ヴェルディを歌うにはやや声に深さが足りない感じはしますが、
響きのポイントは良い感じで、ピアノの表現も抜いて歌っている訳ではなく、
しっかり声をコントロールできるポジションに通していることには好感が持てます。
一方で変なズリ上げの表現をするので、繊細な声の表現からするとアンバランス感も感じます。
全体的に線の細さや表現の若さが目立つ部分はありますが、もっと声相応の役をやれば良いバリトンと言えるのではないでしょうか?
少なくとも大声を垂れ流すだけで、どんな曲を歌っても一辺倒の表現しかできないエセヴェルディバリトンよりは全然良いです。

 

 

 

 

Dimitri Platanias  バス・バリトン
プッチーニ トスカ Te Deum

この人も良い声のバスバリですね。
深さがありながら発音が全て前に集まっているので、言葉ハッキリ聞き取れます。
この人も勿論ギリシャ人で1970年生まれということで、ちょうど脂の乗った今が一番良い年齢でしょう。
高音がやや薄くなりますが、綺麗に響きが上に抜けた声なので合唱の上を越えて飛んでいます。
力一杯叫んでもこうはいきません。
周りの合唱より一段、二段高い響きで歌わなければ大抵の歌手はかき消されます。

 

 

 

 

Christophoros Stamboglis バス
モーツァルト フィガロの結婚 La Vendetta

柔らかい響きで特徴的な声のバスではありますが、上手いですね。
声の好き嫌いは分かれそうですが、上品で、ブッファ役にしては大人しい印象を受けなくはないですが、
相応の身分の人で庶民ではないので、これ位上品な方が役にはハマるかもしれません。
愛の妙薬のインチキ薬売りと、バルトロが同じような表現では流石に変ですからね。
大げさなオーケストレーションに触発されず、自分の声を制御して歌えているところなど、
この歌唱からでも頭の良さが伺えます。

 

 

 

 

Dimitris Paksoglou  テノール
トリビュート

やや線は細いですが、響きが乗っている時の声は美しく、高音も無理に張り上げる感じではありません。
スピントな役柄よりはリリックに近い方向の曲を歌った方が良さそうなので、
ここでの演奏には関心しないものも多いですが、高音は綺麗です。
課題は中低音の声で、高音が抜けるだけに本当に勿体ないです。
具体的に言えば、全体的に鼻に響きを集め過ぎです。
日本人が大好きな鼻腔共鳴を最大限に使った声ですね。
逆に言えば、鼻腔共鳴を開拓してもこれが限界ということです。
似たような声質でドラマティックな役で成功しているチャネフと比較すると違いが分かるのではないかと思います。

 

 

 

Kamen Chanev

PaksoglouとChanev の響きの質の違い、これが鼻腔共鳴を中心に歌っているのと、
顎関節~硬口蓋にかけて広い共鳴を使えているかの違いと言ってしまって差し支えないと思うのですが、
要するに、点で響かせているか面で響かせるか。
この違いが聴き分けられると良い歌手とそうでない歌手の違いが判断し易くなります。
因みに、Chanevは昨年ブルガリア国立歌劇場の来日公演でトゥーランドットのカラフ役を歌ったので、ご存じの方もいらっしゃるかもしれません。
私は残念ながらその時は聴きに行けず、よって記事にもできなかったのが心残りではありますが、周りの声を聴く限り動画の通り良い演奏だったようです。
 

 

とりあえず本日はギリシャのごくわずかな歌手を取り上げてみましたが、
これだけでも非常にレベルが高いのがわかります。
特に印象的なのは、大声で叫ぶ系の歌手が非常に少ないこと。
勿論パワーだけで歌ってる人もいましたが、そういう歌手の比率が非常に少ない。
特に男性の低声にはその傾向が顕著な気がします。
声楽を勉強していてバスやバリトンの方は、イタリア、ドイツ、米国、ロシアの歌手より、
現代ならギリシャの歌手を参考にした方が良いのではないか?とすら思えてくる程です。
本日は時間があまりなく、一つの歌劇場を参考にしただけだったので、また別途良い歌手が見つかれば、
改めてギリシャの歌手紹介第2弾もやりたいと思います。

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